私「クビになってきました。これで移住費用も返さなくていいし、退職金も出たしよかったです。」
グラハム「うん。それは当たり前だ。さて、この契約には問題がある。」
私「一般的な雇用契約書だと思いますが。」
グラハム「まず前も話したとおり、会社側はカナダの退職金に関する規定を君にちゃんと説明していない。」
私「でも、サインしたら理解しているという意味じゃ?」
グラハム「会社側は説明責任がある。理解していないものにサインをさせても無効にできる場合がある。」
私「なるほど。」
グラハム「さらに、彼らにとって最大の失敗は、その日付だ。」
私「ええっと、私がカナダに来て最初に出社した日ですね。」
グラハム「君は、日本にいるときに、本社に雇用されて、会社都合で移住しているね。」
私「はい。まあ、私の希望で移住したんですけど。」
グラハム「会社が費用をもっているんだから会社都合だ。」
私「それが問題ですか?」
グラハム「このドキュメントにサインしているのがカナダに来てからということは、カナダにくるまで解雇条件を知らされていなかったことになる。」
私「そうなりますね。」
グラハム「それまで作り上げた人間関係を切り、子供たちは学校をやめて、荷物を全部送り出して、わざわざ会社都合で移住させられた。
もし解雇条件、ここではカナダの最低基準である給与の2週間分しか保証されないことが事前にわかっていたとしたら、果たしてカナダまで来ただろうか。
法廷でそう話せば、この契約は間違いなく無効とみなされる。」
私「おー。なるほど!しかし法廷でって、大げさな」
グラハム「まあ、法廷で争うことはほとんどなくて、相手が妥協案を出してくるだろう。
通常カナダの慣例では数ヶ月の給与分を退職金として請求できる。君の場合は帰りの引越し費用やその他の経費もだ。」
出された請求書を見ると、さらになんだかよくわからない費用も一杯請求項目に入っている。
私「すばらしい。じゃあ、それでお願いします。」
ちなみに弁護士費用は、かかった時間で時給計算で勝ち負けに関係なく支払う方法と、勝った場合にのみ何割かを弁護士がとっていく方法がある。
私は後者を選んだ。そのほうが弁護士ががんばってくれそうな気がしたからだ。
1週間後、
グラハム「会社が、退職金と規定の引越し費用の上限額を払うと言ってきた。」
私「おお!ありがとうございます!」
グラハム「それで、これ以上の負担は飲めないといってきた。こちらの請求額を全額要求するなら、法廷まで行く可能性があるので、一年ぐらいかかるだろう。」
私「それだけ出るなら十分です。一年も会社が持たないかも知れないので。」
グラハム「まあ、これに家族全員の帰国の旅費相当額ぐらいは追加請求できるだろう。」
私「そうですか。では、お願いします。」
グラハム「確かに会社の経営が厳しいようだから、そのぐらいで受けるのがいいだろう。」
後日、会社側は家族の旅費分も認めるといってきた。
というわけで、移住費用を返すどころか帰りの費用を規定の全額出してもらえることになった。
費用返せという条項がなければ起こらなかったまさかの展開。いやーありがたい。
それにしても、グラハムは顧客ごとに異なる状況で持ち込まれる案件を、的確にかつ、瞬時に(あの、つまらない雇用契約書を見て!)勝敗を判断したのだ。
弁護士業ってすごい。これぞ知的労働という感じである。
グラハム「おめでとう。Good Luck!」
ほれたぜグラハム。
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会社に同情してしまう。
おっかない弁護士ですね(笑)。
ひとつ気になったのは、今回のやりとりは
すべて退職後のものですか?
(エントリからはそう読めますが)
グラハムに「辞めちまえ」と言われて
詳しい理由を聞かずに行動したんだとしたら
りもじろうさんも相当思い切りがいいように
思いました(笑)。
まあお友達のススメがあったから信頼していた
というのはあるでしょうけども。
Anyway, good job!ですね☆
この話は得意げに書くものではないかも…。
犯罪?まではいかないのかもしれないけれど詐欺に近いし、
仮にも最初はカナダに渡らせてくれた感謝してもいい会社なのにな…、と思います。
会社がだめになって愛着がなくなったり、会社にも落ち度があるのだとしても、日本からの移住にかかった費用をまるでその会社からだまし取ったみたいに感じました。
ここで得をしても、こういうつけはどこかでめぐって返ってきてしまうかなって…ちょっと残念でした。
そんなことはないでしょう。
これは企業が(犯罪とまではいかなくとも)正規の手続きを踏まずに雇用して、そのツケを企業自らがはらっただけ。なんで企業側が裁判までいかずに示談に応じたかというのも、企業側に非があって裁判で負けることが分かっていたからでしょう。
日本みたいに企業が不正を行った場合でもそのツケを労働者が払う方が異常なんですよ。
でも、感謝することと負担の境界をはっきりさせることは別の話です。時には、感謝している相手に対しても、対等な立場で交渉して線を引く必要があり、そしてまっとうな会社に対して個人が対等な立場に立つには専門家(弁護士)の力を借りることも必要です。ここらへんの区別が、日本社会ではなあなあにされることが良くあるなあと思います。
仕事をしてゆくなかで、「とりあえず」で手続きを曖昧にしたまま物事を進めることは良くありますが、物事が順調に行かなくなった時には前提に戻ってはっきり線を引き直す、という覚悟が重要です。そこをなんとなく流すと、たとえどちらも善意で行動していたとしても、力を持たないものの方が不利になりがちなんですね。
「会社が搾取」と聞くと、会社がまるで悪意を持っているかのように取る人がいますが、搾取というのは善意悪意の有無にかかわらず構造的に生じるものなんで、感情とは切り離して理性的に対応しないとだめです。感情に流されて構造的な問題を放置することは、その構造に間接的に加担していることになります。
退職転職にあたっての必要出費を請求したにすぎない。